宇宙基本法案』自民提出へ
打ち上げ成功『偵察』衛星
 北朝鮮の軍事施設監視などを行う政府の「情報収集衛星」(IGS)は十一日、打ち上げに成功した。北朝鮮による弾道ミサイル乱射を追い風に、宇宙からの「監視」体制が整う中、自民党は「防衛目的」の軍事利用に道を開く「宇宙基本法」(仮称)案をまとめ、今月下旬召集予定の臨時国会への提出を目指す。なし崩し的に進む宇宙の平和利用原則の見直しの是非は。 (片山夏子、山川剛史)

 ロケットからオレンジ色の炎が上がる。「おお!」。あちこちで歓声が上がる。一瞬の間の後、バリバリバリバリ−と雷鳴のような振動音を上げ、ロケットが雲間に消えると、再び大きな歓声が起きた。

 十一日午後一時三十五分。雷の影響を受け一日延びたものの、定刻に打ち上げが行われた情報収集衛星種子島宇宙センターの発射台から約三キロ。るり色の海に臨む鹿児島県南種子町の小高い丘では、家族連れなど地元の人たち六十人あまりが見守った。

 二〇〇三年に二度目の打ち上げが失敗してから約三年。三基目の打ち上げ成功の知らせを受けて、南種子町の商店街には早速、「打ち上げ成功おめでとう」の旗が飾られた。人口七千人弱。町で唯一の二十四時間営業のコンビニエンスストアもある小さな商店街と、宇宙センターの周辺にはサトウキビやサツマイモの畑が広がる。

 ふだんは、のどかな町だが、約三カ月前から衛星の上がるこの日まで、パトカーが巡回、センターを中心に各所で検問も行われた。

 「偵察衛星の時は警備が厳しいけれど、(三年前の)前回の時はすごかった」と地元タクシー運転手(65)。その時は、身分証提示だけでなく、荷物検査や車両の下も検査されたという。

■『経済効果』住民も複雑

 「(ものものしい警備に)北朝鮮がミサイルで狙うなら、『種子島かも』と思うけど、住民にとっては経済効果の方が大きいんだよね」

 商店街には打ち上げ前から、成功を祈る旗や横断幕のほか、小学生が描いたロケットの絵が飾られ、町全体が歓迎ムードだが、複雑な思いも交錯するという。

 「ロケット基地があることで町全体が潤っているのは事実。しかし、漁協でカネをもらうのは二つの漁協だけ」

 「宇宙機構宇宙航空研究開発機構)や三菱重工などロケット関連の人たちを優待するタクシーや飲食店もあり、快く思わない地元の人とのトラブルもある」

 町は、以前はサトウキビやサツマイモなど農業や漁業で支えられていた。だが、今はロケット関連事業で支えられ、道路も整備された。運転手は「今、この町がロケットでもっていることを考えるとね。やはり複雑だよ」。

 発射台から約三キロ地点にある温泉のおかみさん(41)は「宇宙基本法は私たちを守ってくれるということなのだろうけど、日本が軍事に傾いたら。発射台が目の前にあるから怖い」と懸念する。だが、ロケットの打ち上げのたびに客が増えるのも事実。「ロケットはうちにとっても町にとっても大きいんですよね」とため息をついた。

 農業男性(50)は、宇宙基本法について「どこまでが自衛でどこまでが軍事なのか」と平和利用から一歩踏み込む同法に疑問を呈する。「偵察衛星があっても迎撃ミサイルがなければ意味がない。迎撃ミサイルをいずれ持つのだろうが、防衛だけではなく攻撃にも使える。ミサイル保有するなら、憲法を変えなくちゃならないんじゃないか」

北朝鮮にも近いから…

 島の北部でタクシー運転手をする男性(54)は「種子島北朝鮮にも近い。ある程度はしょうがないけど一気に軍事に傾くのはどうか」と懸念を示した上で「宇宙が夢だけの時代はもう終わったのかもしれない」と話す。

 自民党臨時国会への提出を目指す「宇宙基本法」(仮称)案とは何か。

 これまでの研究開発中心の宇宙開発の在り方を見直し、「わが国の安全保障、産業の振興などに寄与する戦略的な宇宙開発」に変えることが目的。総理大臣を本部長とする「宇宙開発戦略本部」を内閣に設置し、国は必要な予算配分や大型試験設備の整備を含め、総合的な施策を実施する責務があるとしている。

 自衛権の範囲であれば軍事利用も可能とし、より高解像度の衛星や弾道ミサイル発射も検知する早期警戒衛星の開発にも道を開く内容だ。

■『基本法に追い風だ』

 この日、種子島で衛星打ち上げを見守った自民党の宇宙開発特別委員会副委員長の河井克行氏も感慨深げだ。一年前から勉強会を開き、同法案づくりに奔走してきただけに「再チャレンジで成功したことがうれしい。冬にもう一つのレーダー衛星が打ち上がり、四基体制ができれば、やっと地球上のどの地点もカバーできる。基本法にも追い風だ」と声を弾ませる。

 河井氏は「専守防衛の国にはしっかりした情報収集能力が必要だ。テーク・アンド・テークでは同盟関係はうまくいかない。ギブ・アンド・テークの関係ができてこそ情報ももらえる。今回の打ち上げ成功は外交上の意義も大きい」と強調する。

 四基一組が四セットの計十六基体制が理想だとしたうえで、「さらに衛星が高度や撮影角度を変えるなど、より高度な技術開発が必要。基本法制定はその重要な一歩になる」と期待する。

 日本経団連も六月下旬に宇宙開発で提言を発表し、「宇宙開発は社会インフラを提供し、安保、防災、外交などの手段として重要な役割を担う」と推進の立場だ。

 ただ、宇宙開発をめぐる政府の対応はご都合主義的な側面も目立つ。

■政府の見解当初『非軍事』

 一九六九年には「平和目的の利用に限る」との国会決議が採択され、政府見解も「非軍事を指す」というものだった。それが、八五年には「利用が一般化している衛星」については「自衛隊による利用が認められる」との見解に転換。九八年の北朝鮮テポドン発射を受ける形で自前の衛星導入につながった。

 内閣衛星情報センターによると、九八年以降、衛星の開発、打ち上げ、運用に費やした金額は五千五十億円。安全保障だけでなく災害なども含めた多目的な情報収集衛星とされるが、費用の内訳については「情報収集に支障が出るため」として一切公表していない。

■技術開発進め欧米に対抗を

 軍事アナリスト帝京大志方俊之教授は「国が宇宙開発の基本方針を示し、欧米にも対抗できるような技術開発をすべきだ」と推進の立場。それでも、政府のこれまでの対応については「野党の攻撃をかわすため、言葉のつぎはぎでやってきた。きちんとした方針を示さないと諸外国には不透明と映る」と話す。

 経団連産業第二本部の続橋聡(つづきばしさとし)技術グループ長も「これまで宇宙開発の方針を特殊な『非軍事』から、『非侵略的』という国際常識へと切り替え始めたのはいい。ただ、どういうデータを収集し、何に利用しているのか一切開示しない点は不満が残る」と話す。

 確かに安全保障には機密保持は付きものだが、軍事ジャーナリストの神浦元彰さんは、正面からの議論の必要性を説く。

 「偵察衛星は、兵器と組み合わせると、へたに兵器数をそろえるよりずっと強力になる。盾と矛に分ける時代ではない。災害情報も集めているから、(偵察衛星ではなく)情報収集衛星だ、という詭弁(きべん)はやめるべきだ」

◆メモ <情報収集衛星(IGS)>

 日本の安全保障上の情報収集を目的とした偵察衛星。1998年の北朝鮮による弾道ミサイルテポドン」発射で導入が決まった。光学センサーを搭載し画像を撮影する光学衛星とレーダー衛星の2基1組で運用する計画。2003年3月に1号機2基が打ち上げられたが、同年11月に2号機2基を載せたH2Aロケット6号機は打ち上げに失敗。今回、打ち上げに成功した光学衛星に続き、年明けにはレーダー衛星も打ち上げて4基体制になれば、地球上のあらゆる地点を1日1回撮影が可能で、分解能は1メートルという。

<デスクメモ> 今回、打ち上げに成功した偵察衛星でも、識別できる物体の大きさを示す分解能は約一メートル。十センチ前後といわれる米偵察衛星に比べれば、大人と幼児の開き。しかも、画像の解析力も心もとないというから、ほとんど役立たずの状況。それでも、軍事衛星を明確に打ち出す以上、きちんとした議論は当然だろう。(吉)

2006/09/12-違約金67億円請求 橋梁談合で国交省など
 旧日本道路公団や国が発注した鋼鉄製橋梁(きょうりょう)工事をめぐる談合事件にかかわった横河ブリッジなど30数社に対し、国土交通省東日本高速道路会社など高速道路4会社は12日、計約67億円の違約金を請求した。最終的な請求額は約40社を対象に約100億円になるとみられる。
 同一事件での違約金請求額としては過去最大になる。
 請求するのは国交省が約44億円。昨年10月の旧道路公団民営化で発足した東日本、中日本、西日本の各高速道路会社、日本高速道路保有・債務返済機構の4法人が約23億円となる。
 国交省によると、対象は独禁法に基づく課徴金納付命令を受け、発注した工事が既に完了した企業。横河のほか石川島播磨重工業川崎重工業などが含まれる。