<中国産ギョーザ>回収までに1カ月 行政対応が「後手」
(毎日新聞 - 01月31日 00:53)
 中国産の冷凍ギョーザによる中毒事件は、昨年末に最初の被害が発生したにもかかわらず、行政や警察が発表し、商品回収に乗りだしたのは約1カ月遅れになった。早い時点でギョーザが原因ではないとした判断や後手にまわった対応が、結果的に被害を拡大した形だ。

 東京都は今月7日朝、兵庫県から中毒被害の発生と調査の依頼を受けたが、輸入元のジェイティフーズから、当該商品の輸入量や症状を伴う苦情件数などを情報収集するにとどめた。調査の結果、同様の被害はなかった。また、このケースは被害者が約2週間前に商品の一部を食べており、その際体調に異常がなかったことから、同県は「開封後に農薬が混入したのではないか」と都に伝えた。

 この判断について県は「当時、流通ルートが原因と判断できる材料はなく、県警の科学的な調査結果を待つしかなかった」と釈明する。都も8日午前の段階で「製造・流通ルートが原因ではない単発の事例」と判断し、一般に公開しなかったという。

 一方、昨年12月28日に発生した千葉市のケース。被害者が市保健所に通報したのは、退院後の1月4日。市保健所によると、病院が女性の血液検査を行わず、原因がはっきりしなかった。コープから「細菌検査の結果、食中毒と結びつくような問題はなかった」との回答を得たこともあり、21日までに調査を打ち切った。保健所は「結果的に不十分な調査だったと考えている」とコメントした。

 22日発生の千葉県市川市のケースで、同県は23日、県市川保健所から「(嘔吐(おうと)など)有機リン系農薬が原因とみられる食中毒が発生した」と連絡があり、初めて事態を把握した。病院で採取した嘔吐物を調べたが、検体が少なく有機リン系の成分は検出できず、県の調査は事実上、この段階でストップした。

 29日になって、発生直後に現場の嘔吐物を採取していた県警から「メタミドホス」が検出されたと連絡があり、原因が分かった。県は「家族が食べた食材を入手しようとしたが、県警が押収してしまったため検査できなかった」としている。

JT、規模拡大の矢先 中国離れ懸念 ギョーザ薬物中毒

2008年02月01日09時59分

 どこまで影響が広がるのか――。中国製冷凍ギョーザによる中毒で、冷凍食品大手、加ト吉を買収して、冷食事業の規模を拡大したばかりの日本たばこ産業(JT)は大きな痛手を受けそうだ。消費者の「中国離れ」が進むことも懸念される。生産拠点を中国に頼る冷食業界全体に、不安感が漂いはじめた。

 問題の中国製ギョーザを販売したジェイティフーズの親会社JTは、冷食を事業の柱にするため、1月に冷食大手の加ト吉を買収した。4月には自社と日清食品の冷食事業を加ト吉に集約して、「日本最大級の冷食メーカー」を誕生させる手はずを整えていた。3社の冷食事業を合わせると売上高は約2600億円。「食品業界再編の核となる」(木村宏社長)と意気込んでいた矢先の失態だった。

 JTの冷食の売上高は約500億円で、うち2割は中国製品とみられる。大手スーパーの西友やサミットなどの製品撤去はJTグループの冷食全般に及んでいる。こうした動きが長引けば、業績に深刻な影響を与えかねない。失った信頼の回復には、さらに長い時間がかかるのは確実だ。

 しかもJTの冷食の海外生産拠点は、ほぼ中国に集中している。今回の事態をうけ、JTは「タイやベトナムにも移す方向で議論がはじまる」(JT首脳)という。リスク回避のための拠点の分散だが、コストアップは避けられない。

 どこまで影響が広がるのか。他の冷食メーカーも戦々恐々だ。

 「これは食べても大丈夫なのか?」

 冷食大手、ニチロの相談窓口には消費者の問い合わせが31日朝から殺到。日中は電話とメールを合わせると700件近くにのぼった。ほかのメーカーも消費者への対応や自社製品の品質確認に追われ、混乱が続いた。

 各社が最も恐れるのは、消費者による「中国忌避」の広がりだ。

 冷食分野は、食品事業で数少ない成長分野だ。手軽さがうけ、近年も消費は増加傾向にあった。

 住友信託銀行調査部の秦野敏行主任調査役による分析では、冷食(冷凍調理食品)の1世帯当たり平均購入額は06年で5195円。87年の約2.2倍だ。この伸びを支えたのが中国製品だった。

 業界からは「中国から生産を移すのは、非現実的だ」(日本冷凍食品協会の木村均専務理事)との声が強い。だが、消費者の中国への不信感が高まったり、検査充実でコストが急増したりすれば、「国内回帰」の可能性も出てくる。冷食業界の寡占化に拍車がかかる可能性がある。