有罪判決/「精肉石川屋」豚肉産地偽装

2009年02月26日

 仙台市の学校給食などに使われた豚肉の産地偽装事件で、不正競争防止法と詐欺の罪に問われた食肉処理会社「精肉石川屋」(仙台市、廃業)の元社長石川里美被告(50)の判決が25日、仙台地裁であった。山内昭善裁判長は「私的な利潤の追求のみを考えた身勝手な犯行動機に酌量の余地はみじんもない」として懲役3年執行猶予4年(求刑懲役3年)を言い渡した。

 判決によると、石川被告は07年2〜6月にかけ、仙台市の学校給食センターなど6カ所に外国産豚肉ロースの切り身計8万6260個(約4173キロ)を納める際、製造証明書27通の産地欄に「宮城県登米市米山町」と従業員に記載させ、国産に偽装。代金約437万円を市からだまし取った。

 山内裁判長は「安定して利益を得られる大口取引先の給食センターから、継続的に契約を取りたいと(石川被告が)考えた」と認定。「被告は主導的な役割を果たしていない」との弁護側の主張を「会社の存立にかかわる重要事項を把握していなかったとする不自然不合理なもので、到底信用できない」と退けた。一方で、偽装が石川被告が社長に就任する前から行われていた疑いがあることなどから、「社会内で自力更生する機会を与える」として刑の執行を猶予した。

 判決後、石川被告は弁護士を通じ、「食品に対する信用不安を起こし、社会に大変ご迷惑をおかけしました事を心からおわび申し上げます」とのコメントを発表。弁護士は「量刑に特段不服はないが、情状の事実認定については大いに不服」と話し、控訴を検討する構えを見せた。

神戸製鋼:トップ辞任…法令順守逆らえず しがらみ指摘も

会見で経緯を話す神戸製鋼所の犬伏泰夫社長(左)。右隣りは次期社長に就任する佐藤広士副社長=神戸市中央区で2009年2月10日午後4時33分、小川昌宏撮影

 政治資金規正法で禁じられている企業献金の発覚で神戸製鋼所のトップ2人が辞任を表明した背景には、企業のコンプライアンス(法令順守)強化の流れがある。

 日本経団連は「企業行動憲章」で、「法令順守が社会的責任の基本であることを再認識する必要がある」と指摘。「政治、行政との健全かつ正常な関係を保つ」よう会員企業に要請している。また、憲章の手引では「政治資金規正法の順守」を求める一方、「企業の社会貢献の一環として政策本位で政党本部への自発的寄付を実施する」とし、政党に対する資金支援を推奨している。

 こうした流れを受けて、トヨタ自動車は「会社として自民党政治資金団体国民政治協会』に献金している。しかし、選挙の際に役員などが個人的に応援に行くことはあるとしても、会社として候補者の支援はしていない」という。日産自動車は「政治献金が(ルノーと提携関係の)外資系企業に緩和されたのはつい数年前。最近は政党への献金を行っているが、議員個人への献金は一切していない」。ホンダも「議員個人への寄付などは、少なくとも90年代以降、一切、行っていない」(広報担当)と話す。

 ただ、一部で神戸製鋼のケースと同様、過去のしがらみから企業出身議員への支援を断ち切れないケースもあるようだ。今回、問題になった地方議員は同社社員や同社OB。神戸製鋼の関係者は「全員が元々はサラリーマン。地盤はあってもカバンはなく、資金面で出身企業が支援するよりほかなかったのではないか」と指摘。自動車メーカーの関係者は「自動車メーカーは公共事業を受注しているわけでもなく、規模の割に政治とのかかわりが薄い」と述べ、公共事業で鋼材受注が多い鉄鋼会社と企業城下町選挙のしがらみを指摘する。【田畑悦郎、谷川貴史、鈴木泰広】
 ◇総務省「規正法、常識のはず」

 政治資金規正法は企業や労働組合などの団体が政治家個人に献金することを一切禁止している。10年前から大きな改正もなかったことから、周知されていると判断していた総務省神戸製鋼の事案について「最近は聞いたことがない話だ」(幹部)と驚いている。

 政治資金規正法献金を認めているのは政党と政党の政治資金団体だけで、今回は禁止された政治家個人への企業献金にあたるとみられる。

 献金に厳しい規制がかかったきっかけは88年に発覚したリクルート事件。94年の政治資金規正法改正で、それまでは認められていた政治家個人への献金は一切禁止されたが、政治家が代表を務める資金管理団体には年50万円まで献金が可能だった。5年後の見直しとなった99年には資金管理団体への献金も禁止された。

 しかし、直接提供を断たれた形の企業や団体は、政党支部を経由して政治家の資金管理団体に資金を回す「迂回(うかい)献金」を抜け道として利用するようになったとされる。この迂回献金は「脱法行為」と指摘されることが多く、「政治とカネ」の問題で焦点となっている。

 そうした中での「古典的違反の可能性が高い事案」を受け、総務省幹部は「神戸製鋼がいまだにこんなことをしていたのは信じられない。もはや常識だと思っていたのに」と語る。【石川貴教】