【社会】
エレベーター高2死亡事故あす2年  シンドラー立件、焦点

2008年6月2日 朝刊

 東京都港区のマンションで二〇〇六年六月、都立高校二年市川大輔(ひろすけ)さん=当時(16)=がエレベーターに挟まれて死亡した事故から三日で二年。警視庁捜査一課は直接の事故原因の解明をほぼ終え、業務上過失致死容疑で保守点検業者を立件する方針だが、最大の焦点は製造元のシンドラーエレベータ社(東京都江東区)の刑事責任を問えるかどうか。同課はさらに関係者から事情聴取を重ね、東京地検などと慎重に協議を進めている。

 同課の調べで、かごが突然上昇したのは、機械室内のブレーキパッドが摩耗していてブレーキドラムを制止できなかったことが原因と判明。鑑定や再現実験を重ねた結果、同課は、パッドを制御する電磁コイルの損傷により、パッドとドラムが接した状態で運転が続き、徐々にパッドが摩耗したとみている。

 同課は、保守点検を担っていた「エス・イー・シーエレベーター」(台東区)が事故の九日前に定期点検した際、パッドの摩耗を見落とさずに部品を交換するなど適正に対応すれば事故を防げたとして、点検作業員らを立件する見通しだ。

 一方、シンドラー社は事故機を製造して一九九八年に設置し、〇五年三月までは自社で保守点検もしていた。だが事故当時は、部品交換など事故を防ぐ直接の手だてを講じる立場にはなかった。

 ただ、同課などによると、事故機ではシ社が保守点検していた当時から目標階で停止しないなどの不具合や故障がたびたび生じていた。しかし、シ社はトラブルについて十分な情報をエス社に開示していなかったという。
原因解明と安全 両親、国に要請へ

 市川大輔さんの三回忌となる三日、父和民さん(54)と母正子さん(56)は東京地検警察庁国土交通省に約十二万人分の署名を添えた請願書を提出する。その骨子は速やかに事故原因を徹底解明し、安全なエレベーターに利用者が安心して乗れるようにすることだ。

 事故後も、シンドラー社による点検作業資格の不正取得が明らかになったり、別の大手メーカーがずさんな保守点検を続け、六本木ヒルズのエレベーターでは火災が発生した。

 両親は業界にはびこる安全軽視の体質を耳にする度に「やっぱり息子は殺されたんだ」との思いを強くしてきた。「このまま何も変わらないのでは突然奪われた息子の命が浮かばれない」。事故の背景まで含めた徹底的な原因究明と再発防止を強く願っている。

シンドラーエレベータの事故> 2006年6月3日午後7時20分ごろ、東京都港区芝のマンション「シティハイツ竹芝」の12階で止まったシンドラー社製エレベーターから、市川大輔さんが後ろ向きで自転車を押しながら降りようとした際、扉が開いたままかごが上昇し、かごの床面と乗り場の外枠に体を挟まれて圧死した。事故後、全国のシンドラー社製でトラブルが多発していることが表面化し、国交省は同社製全機の緊急点検を要請した。